私の住む群馬県高崎市吉井町は、かつて「西の明珍、東の吉井」といわれた火打金の名産地でした。とくに江戸時代後期の江戸に於いては圧倒的人気を得ていたそうです。
吉井町でも平成七年、平成十年の文化祭で火打金を取り上げた特別展が開催されて、町内外で話題となりました。
その火打金は形状によりおよそ三種類に分類されます。一般的に多く使用されたものに、木板の台に取り付けられた鋼の部分が木造建築に使われる「カスガイ型」と呼ばれ、木板の台の部分には「吉井本家請合」の焼印が押されています。
次は、鋼のみで、その形状が短冊に似ているところから「短冊型」と呼ばれています。
三番目が、吉井火打金の代名詞ともなっている「ネジリ型」と呼ばれるもので、鋼の部分の両端をつまんで、上部でねじり結合させた形状のもので、吉井火打金の高度な鍛冶技術の見所でもあります。
吉井火打金の鋼の部分に切られている銘のいままで記録されているものを調べてみると、柏書房出版の『火の道具』のなかに、長野県小布施のあかりの博物館蔵の火打金についての記録があり、また吉井町で平成七年、平成十年に開催された、吉井火打金の出品目録が記載されていて、高崎市内のあかりの資料館を筆頭に出品者の内容が紹介されていますが、銘の主なものは「上州吉井中野屋女作」、「上州中野屋女作」、「上州吉井本家女作」などがあり、いずれも「女作」銘が切られていることなどが吉井火打金の特色ですが、これは女人禁制の鍛冶職では異例のことですが、鍛冶屋の奥さんが作ったということですが、今回このことが銘文として具体的に残っている火打金の手に入れることが出来ました。
この吉井火打金を世話してくれた人がいます。この方は私が日頃立ち寄らせていただいている、県立博物館近くの骨董店の店主Hさんです。
Hさんは骨董屋さんの中でも「買い出し屋」さんと呼ばれる、一般の家を訪問して買い付ける根気のいる仕事のためか、もの腰はやわらかく、人当たりの良い人ですが、品物を見る目は厳しく、その骨董全般にわたる深い知識には頭が下がります。
五年程前に、たまたま立ち寄った縁が、そのまま続いていますが、私は「火打金を買い出した時は、是非紹介して下さい」とお願いして、今までにも数点の火打金を手に入れることが出来ましたが、今回は今までの吉井火打金の中では見ることのなかった銘文の火打金を入手することが出来ましたので、Hさんに感謝するとともに、ご紹介させていただきます。
形状は「ネジリ型」で、銘文は「上州吉井本家中野妻作」と切ってあり、従来見られる「女作」でなく、「妻作」は今まで記録されていない銘文だと思います。
これを機に一層、吉井火打金に関心が集まることを期待しています。 |